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特集
平成19年版
特集 バイオマスエネルギープロジェクト
バイオマスエネルギープロジェクト
バイオマスエネルギープロジェクトは、休耕田や耕作放棄地等を活用して、ナタネ、ヒマワリ等の油糧作物を栽培し、大気中の二酸化炭素を増加させないバイオディーゼル燃料(BDF)を生産・利活用し、油糧作物の葉・茎等の廃棄物を循環利用することにより、循環型社会経済システムの形成、地球温暖化の防止、農地の保全ほか、美しい景観形成等による都市と農村の交流、農村における雇用の創出等による地域の活性化等を図るものです
図1[バイオマスエネルギープロジェクト概要図]
プロジェクトの経緯
バイオマスエネルギープロジェクトは愛媛県科学技術振興会議において15年度の共同研究基礎調査事業として採用されたもので、平成15年度に経済産業省の補助金を受けて実現可能性調査を実施し、平成16年度にこのプロジェクトを主要施策として位置づけた「えひめバイオマス利活用マスタープラン」を策定し、産・学・行の研究体制の構築を行いました。
平成17年度にはプロジェクトの具体化に取り組むため、環境省、農林水産省の委託・補助を受けて、愛媛大学や地元企業等との産・学・行の連携のもと、「BDFの製造に係る新技術の開発」、「油糧作物収穫機械の改良・廃棄物の再利用に係る技術開発」等の実証試験やシステムづくりに取り組み、平成18年度からは17年度に行ったBDF製造装置やヒマワリ収穫用コンバインの開発成果を踏まえ、市町が主体となったモデル地域でプロジェクトの具体化を進めています。
平成17年度技術開発の概要
バイオマスエネルギープロジェクトは、循環型社会システムの構築、農地の保全、地球温暖化の防止、地域の活性化等の効果が大きいとされる中、プロジェクトの実施にはコスト低減や技術上の課題解決に向けた新技術開発が必要とされてきました。そのため、平成17年度には国の委託・補助を受け、課題解決のための実証試験を実施し、市町のモデル事業に試作機を貸し出す等、広く成果の啓発・普及に努めています。
なお開発した技術については、特許を共同出願しています。(特願2006-21774、特願2006-79759、特願2006-79760)
固定触媒法によるBDF製造技術開発
現在主流となっているBDF製造技術は植物油脂と水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、メタノールを一つのタンクに入れて反応させるものであり、バッチ式で効率が悪く、製造工程が複雑であることや、反応後の触媒の分離やアルカリ廃液が発生する等の問題点があります。
このため、カルシウム系化合物を使った固定触媒およびこの固定触媒を充填した反応塔に植物油脂とメタノールの混合物を通すことにより連続的に反応させる技術を愛媛大学、レボインターナショナル株式会社と共同で開発し、試作機(精製能力2L/1h)を製作しました。
【開発したBDF製造装置】
項目 |
EU規格 |
アメリカ規格 |
試作機 |
---|---|---|---|
エステル含量(%) |
96.5以上 |
- |
98.9 |
密度(15℃:g/c立方メートル) |
0.86~0.90 |
0.88 |
0.88 |
動粘度(m平方メートル/s) |
3.5~5.0 |
1.9~6.0 |
4.3 |
引火点(℃) |
120以上 |
130以上 |
170 |
水分(mg/kg) |
500以下 |
500以下 |
248 |
メタノール(%) |
0.2以下 |
- |
0.003以下 |
酸価(mg KOH/g) |
0.5以下 |
0.8以下 |
0.4 |
ヨウ素価 |
120以下 |
- |
118 |
開発した固定触媒は、メタノールに溶けないため反応後の触媒の分離が容易に行え、発生するアルカリ液も従来のものと比べ少なくなっています。またこの装置で精製したBDFは欧米規格を十分満たしており、触媒も繰り返し利用することができます。
ヒマワリ収穫機
油糧作物用のひまわりは、観賞用のものとは異なり、背が高く、茎も太く、花柄も大きいため、通常のコンバインでは収穫できず、労働コストや収穫ロスが問題となっていました。
今回、井関農機株式会社と開発した収穫機は、小区画圃場においても効率的に収穫でき、収穫ロスが5%以下、悪条件の圃場でも10アールあたり60分程度で収穫できる能力を持っています。また刈り取った茎もクローラーでつぶすことなく整列して排出されるため、これまで圃場にすき込まれていた茎葉も有効利用しやすくなりました。
図3開発したヒマワリ収穫期
図4収穫されたヒマワリの種子
主要寸法 |
全長4.94m 全幅1.97m 全高2.5m 重量2570kg |
---|---|
走行部 |
エンジン出力 25.7kw/2700rpm |
刈取及び脱穀作用部 |
茎整列装置有り |
作業精度 |
脱穀選別損失率 5%以下 |
作業能率 |
実測作業能率 10aあたり39~56分 |
市町主体のモデル事業の実施
平成18年度から開始したモデル事業では、宇和島市、大洲市、東温市、松前町、内子町、鬼北町をモデル地域とし、地域住民の参加を得て休耕田等を活用したヒマワリや菜の花の栽培、開花時期にはヒマワリ祭り等のイベントを開催するなど、バイオマスの利活用や地球温暖化防止についての啓発が行われています。また、栽培したヒマワリや菜の花の種子を搾油し、地域の廃食用油とともにBDFを製造、公用車等で利用するという取組も広がってきています。
市町主体のモデル事業では、住民が参加してヒマワリを栽培し、花が咲いた景観を楽しみ、収穫したヒマワリ油は食用にも利用でき、そして、その油でディーゼルエンジンが動くといったバイオマスの新たな利用価値を体験するもので、バイオマスの利用啓発面でも効果があるものと期待しています。
モデル地域でのヒマワリ栽培状況
平成18年度栽培等実績
平成19年度栽培等実績(10月末現在)
地元住民等による播種
栽培・開花(ヒマワリ祭)
種子の収穫
県公害測定車でのバイオ燃料利用
これまで実施してきた「バイオマスエネルギープロジェクト」の技術開発成果等を活かして、平成19年11月から県立衛生環境研究所においてヒマワリ油から製造したBDFを5%混合した軽油を、公害測定車1台の燃料としての使用を開始し、バイオマス燃料に対する県民への啓発を図っています。
公害測定車
- 車種:トヨタハイエースDX
- 配備年月:平成19年3月
- エンジン形式:コモンレール式直噴ディーゼルターボ、総排気量2,494cc
- 用途:工場排ガス、環境大気の測定・調査に利用
二酸化炭素削減効果
公害測定車の年間走行距離が約5,000km、年間軽油使用量が約500であることから、公害測定車の燃料を「軽油」から「BDF5%混合軽油」に変更するとすることにより、年間約60kgの二酸化炭素が削減される。
幅広いバイオ燃料の利用に向けて
BDFの利用に加え、更に幅広いバイオマス燃料の導入に取組むため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から補助を受け、県の環境、経済、農林部局が連携して、県内の石油、機械、酒造、農業等の団体や企業、愛媛大学の専門家等で構成する「バイオエタノール導入可能性調査委員会」を本年度設置、検討を行っており、県内のバイオマスの生産・賦存量や担い手の実態、発酵技術の現状、コスト計算等を明らかにした上で、本県独自のバイオエタノール事業化モデルを提案することとしています。
県としては、今後はこれらの検討結果等を踏まえ、本県の地域特性にあったバイオエタノール事業化に向けた民間等の取組を積極的に支援していきたいと考えています。