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愛媛県木材の供給及び利用の促進に関する条例
戦後、積極的に造成された本県のすぎ、ひのき等の人工林資源は充実し、特にひのきの素材生産量は全国でも上位に位置するなど、正に成熟期を迎え、「育てる時代」から「利用する時代」へと移行してきている。
一方、人口減少の進展により、木材需要が減少することが予想される中で、木材価格の長期にわたる低迷による森林所有者の経営意欲の減退、林業の担い手不足、林道等の基盤整備の遅れ等により、林業生産活動は停滞し、木材生産が伸び悩んでいるほか、間伐等の適正な森林整備がなされない森林が増加し、森林の持つ水源の涵(かん)養、二酸化炭素の吸収及び固定化など、県民生活に不可欠な公益的機能の発揮に支障を来すことが危惧されている。
こうした状況を打開するためには、木材の安定供給体制の構築と新たな木材需要の創出により、木を伐採し、伐採した木を利用し、植林し、育林し、再び伐採するという生業としての林業及び木材産業を活性化させ、豊かな森林資源の循環利用を確立することで、林業及び木材産業を地域の成長産業に育成することが必要となっている。
ここに、私たちは、木材を利用することの重要性に関する認識を改めて共有し、木材の供給及び利用の促進に県全体で取り組むために必要な施策を総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。
(目的)
第1条 この条例は、木材の供給及び利用の促進に関し、基本理念を定め、県の責務、市町との連携等並びに森林所有者、森林組合、林業事業者、木材産業事業者、建築関係事業者及び県民等の役割について明らかにするとともに、木材の供給及び利用の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、当該施策を総合的かつ計画的に推進し、もって県内の林業及び木材産業の振興を図り、本県経済の活性化及び森林の有する多面的機能の持続的な発揮に資するとともに、県民生活の向上に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 森林の有する多面的機能 林産物の供給、水源の涵(かん)養、山地災害(山崩れ、土石流、地滑り等の山地における災害をいう。)の防止、土壌、地球環境及び生物多様性の保全その他の森林の有する多面にわたる機能をいう。
(2) 森林資源の循環利用 伐採、木材の利用、植林及び育林という一連の行為により、森林資源である木材が繰り返し生産され、及び有効に利用されることをいう。
(3) 森林所有者 森林法(昭和26年法律第249号)第2条第2項に規定する森林所有者をいう。
(4) 森林組合 森林組合法(昭和53年法律第36号)に規定する森林組合、生産森林組合及び森林組合連合会をいう。
(5) 林業事業者 森林施業(造林、保育、伐採その他の森林における施業をいう。以下同じ。)を行う者をいう。
(6) 木材産業事業者 木材の加工又は流通の事業を行う者をいう。
(7) 建築関係事業者 建築物の設計又は施工の事業を行う者をいう。
(8) 県産木材 県内で生産された木材をいう。
(9) 県産木材製品 県産木材を原材料とした製品又は県外から移入した木材を原材料として県内の事業所で製造された製品をいう。
(10) 愛媛ブランド材 品質及び性能の確かな製品として県独自の品質基準を満たす県産木材製品をいう。
(11) 木質バイオマス 公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成22年法律第36号)第19条に規定する木質バイオマスをいう。
(基本理念)
第3条 木材の供給及び利用の促進は、次に掲げる事項を基本として行われなければならない。
(1) 木材の生産、加工、流通その他の森林経営及び木材産業の業務に従事する担い手の確保、育成及び就労の定着のため、その経営基盤の強化が進められること。
(2) 森林資源を最大限に生かしていくため、木材の供給者から消費者までを結び付ける効率的な流通体制が構築されるとともに、従来の木材の利用のほか、新たな木材の加工及び利用の技術の開発及び普及を図ることにより、木材需要の創出及び利用拡大が進められること。
(3) 木材の利用の促進により、生業としての林業を活性化させることで、森林の適正な管理を図り、森林の有する多面的機能を向上させること。
(4) 前3号に掲げる事項に関する取組を通じ、森林資源を充実させ、森林資源の循環利用を進めることにより、本県経済を支える林業、木材産業その他の木材関連産業の振興が図られること。
(県の責務)
第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、県産木材をはじめとする木材の供給及び利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 県は、前項の施策を策定し、及び実施するに当たっては、森林所有者、森林組合、林業事業者、木材産業事業者、建築関係事業者その他の関係事業者との協働に努めるものとする。
(市町との連携等)
第5条 県は、前条第1項の施策を策定し、及び実施するに当たっては、市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策との整合を図るため、市町と情報交換を行う等緊密に連携するとともに、助言その他の必要な支援を行うよう努めるものとする。
(森林所有者の役割)
第6条 森林所有者は、基本理念にのっとり、森林の有する多面的機能の持続的な発揮を図るため、その所有する森林の適切な整備及び保全に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(森林組合の役割)
第7条 森林組合は、基本理念にのっとり、地域における森林経営の中核的な担い手として、森林の適切な整備及び保全並びに林業の振興に積極的に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(林業事業者の役割)
第8条 林業事業者は、基本理念にのっとり、森林の有する多面的機能の持続的な発揮を図るための森林の適切な整備及び保全並びに計画的な森林経営による県産木材の安定供給に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(木材産業事業者の役割)
第9条 木材産業事業者は、基本理念にのっとり、県産木材の有効利用及び流通の促進(県産木材製品の国内販売及び輸出の促進を含む。)、木材製品の安定供給、木材の加工及び利用の技術の開発、普及及び継承、人材の育成その他の木材産業の振興に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(建築関係事業者の役割)
第10条 建築関係事業者は、基本理念にのっとり、木材に係る知識の習得、県産木材の優先的かつ積極的な利用、木造建築技術の継承及び人材の育成に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(県民等の役割)
第11条 県民及び事業者(以下「県民等」という。)は、基本理念にのっとり、木材の供給及び利用の促進が本県経済の活性化及び森林の有する多面的機能の持続的な発揮に資することについての理解並びにその日常生活及び事業活動を通じて、県産木材及び県産木材製品の利用の促進に努めるとともに、県又は市町が実施する木材の供給及び利用の促進に関する施策に協力するよう努めるものとする。
(基本計画)
第12条 知事は、木材の供給及び利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、木材の供給及び利用の促進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を策定するものとする。
2 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
(1) 木材の供給及び利用の促進に関する基本的な事項
(2) 木材の供給及び利用の目標
(3) 前2号に掲げるもののほか、県産木材の供給及び利用の促進に関し必要な事項
3 知事は、基本計画を定めるに当たっては、あらかじめ、市町、森林所有者、森林組合、林業事業者、木材産業事業者及び建築関係事業者の意見を聴くほか、県民等の意見を反映するために必要な措置を講ずるものとする。4 知事は、基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
5 前2項の規定は、基本計画の変更について準用する。
(木材の供給の促進のための措置)
第13条 県は、木材の供給の促進を図るため、次に掲げる事項について必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(1) 森林の有する多面的機能を向上させ、高度に発揮させるための森林の整備に関すること。
(2) 森林資源の再生産を図るための主伐及び再造林の促進に関すること。
(3) 持続的かつ計画的な森林経営を行う体制の構築に関すること。
(4) 県産木材の生産、加工、流通等を安定的かつ効率的に行うことができる供給体制の構築に関すること。
(5) 木材の供給体制を担う人材の育成に関すること。
(6) 前各号に掲げるもののほか、県産木材の供給の促進に関すること。
(木材の利用の促進のための措置)
第14条 県は、木材の利用の促進を図るため、次に掲げる事項について必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(1) 愛媛ブランド材その他の県産木材及び県産木材製品の国内外への販路拡大に関すること。
(2) 建築物、公共土木施設その他の工作物(以下「建築物等」という。)への積極的な県産木材の利用の推進に関すること。
(3) 建築物等への木材の活用その他の木材の利用の促進を担う人材の育成に関すること。
(4) 木材の加工及び利用の技術の開発及び普及に関すること。
(5) 木質バイオマスその他の木材の有効利用に関すること。
(6) 前各号に掲げるもののほか、県産木材の利用の促進に関すること。
(公共施設における県産木材の利用等)
第15条 県は、公共施設の整備に当たっては、県産木材の利用を促進するため、木造化又は木質化を積極的に推進するよう努めるものとする。
2 県は、市町その他公共的団体等に対して、建築物等の木造化又は木質化を要請するとともに、県産木材の利用が促進されるよう必要な支援に努めるものとする。
(森林資源の循環利用の確立)
第16条 県は、前3条の措置を総合的かつ計画的に実施することにより、県産木材に係る森林資源の循環利用を確立し、森林所有者、森林組合、林業事業者、木材産業事業者その他の県産木材を取り扱う事業者の持続可能な事業経営が促進されるよう努めるものとする。
(普及啓発)
第17条 県は、森林の有する多面的機能の重要性及び県産木材の利用に関する意義について県民の理解を深め、森林を社会全体で支えるという機運を醸成するよう普及啓発に努めるものとする。
(意見交換等の体制の整備)
第18条 県は、木材の供給及び利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、県、市町、森林所有者、森林組合、林業事業者、木材産業事業者、建築関係事業者及び県民等が意見を交換し、及び相互に協力することができる体制の整備に努めるものとする。
(財政上の措置)
第19条 県は、木材の供給及び利用の促進に関する施策を実施するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(施策の実施状況の公表)
第20条 知事は、毎年度、木材の供給及び利用の促進に関する施策の実施状況を公表するものとする。
附則
1 この条例は、公布の日から施行する。
2 この条例の施行の際現に策定されている木材の供給及び利用の促進に関する事項を定めた県の計画は、第12条第1項の規定により策定された基本計画とみなす。