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宮前川水系河川整備基本方針
平成14年1月
- 河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
(1)流域及び河川の概要
(2)河川の総合的な保全と利用に関する基本方針 - 河川の整備の基本となるべき事項
(1)基本高水並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項
(2)主要な地点における計画高水流量に関する事項
(3)主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る川幅に関する事項
(4)主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項
(参考図)
1.河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
(1)流域及び河川の概要
宮前川は、その源を一級河川重信川水系石手川の中流部岩堰付近に発し、四国八十八ヶ所霊場51番札所石手寺の前を流下し、日本最古の温泉のある道後地区を経て、松山市内市街地の用排水路の役割を果たしつつ、市内中心部である松山城の北側を西に流下し、途中JR予讃線付近で南西に向きを変え、普通河川中の川を合わせ、さらに北流して三津浜港に注ぐ、流域面積12.9k平方メートル、流路延長10.8kmの二級河川である。
その流域は、県都松山市の中心市街地のほとんどを占めており、松山市における社会、経済、文化の基盤を成すとともに、自然環境の乏しい市街地にあって、沿川住民にやすらぎと潤いを与える貴重な空間となっていることから、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。
宮前川の流域は、上流部及び中流部にごく一部山地があるものの、ほとんどが高度に都市化された市街地となっており、中・下流部において僅かに残っている農耕地についても、宅地化や土地の高度利用化等が現在も進展しつつあり、典型的な都市流域の様相を呈している。
宮前川は、隣接する一級河川重信川水系石手川より導水された水が流れる農業用水路として、古くから利用されており、平地を流れる直線的な単断面水路となっている。河道内は、両岸がコンクリート護岸で改修されている区間が多く、生物の生息・生育環境としては、乏しいものとなっている。また、河川沿いの散策路については、全川にわたり、沿川住民の水辺の散歩道として利用されている。
上流域は、松山城を中心とする市の中心地区と道後・石手地区などの居住地から形成されている。また、道後温泉等の観光資源に恵まれた地域となっており、全国からも多くの観光客が訪れている。植生としては、最上流の山地で、愛媛県において多く栽培されている蜜柑・伊予柑等の常緑果樹園やコバノミツバツツジ-アカマツ群落が見られ、松山城付近では、シイ・カシ萌芽林が見られる。河道は、灌漑期間には、一級河川重信川水系石手川より農業用水が導水されているため、水量は豊富となっている。河岸は、三面張の用排水路となっており、ほとんど植生は見当たらない。魚類は、メダカ、ギンブナ等が確認される程度である。
中流域は、かつて農耕地が大部分を占めていたが、近年では環状線が整備されるなどして、郊外型の居住地区として急速に宅地化が進展している地域である。河道内の土砂堆積箇所では、ミゾソバ、ヌカボ、ケイヌビエ等が群落を形成しており、好湿性の植生で覆われている。河岸は、概ね護岸整備が実施されており、部分的に魚巣ブロックなどが施工されており、メダカ、コイ、フナ、オイカワ等が生息している。また、緩傾斜の自然石護岸や巨石護岸が整備されている区間があり、その区間は、水際に近づき易くなっており、松山市の中心市街地において、貴重なせせらぎ空間となっている。
下流域には、古くより栄えた漁港の三津浜地区があり、商業地区と居住地区が混在している。河川環境としては、干潮区間において、ホソバミズヒキモ、クロモ、エビモ等沈水植物が群落を形成している程度となっている。また、河口付近では、準絶滅危惧種に指定されているカワヂシャの生育が確認されている。魚類は、潮汐により河口を出入りする汽水・海水魚であるメナダ、ボラが生息しており、干潮区間より上流では、回遊魚のウナギ、メダカ、カダヤシ、コイなどの淡水魚が生息している。
河川の水質は、環境基準の類型指定は設定されていないが、平成8年度の水質調査結果によると、中の川合流点より下流区間でD~E類型程度となっていた。現在では、松山市下水道中央処理センターの処理施設が、従来の中級処理施設から高級処理施設に切り替わったことから、中下流域における水質はC類型程度となっている。今後も、流域内における下水道の整備が進められていることから、水質の改善が見込まれている。宮前川では、かつて水質汚濁に起因すると思われるユスリカの大量発生が問題となっていたが、現在では、ユスリカ大量発生の問題は大幅に軽減されている。
宮前川の治水事業は、流域内の都市化による遊水機能の低下及び流出形態の変化に伴う浸水被害の増大により、昭和39年頃より抜本的治水対策が叫ばれ始め、昭和41年度から浸水被害が最も多発していた松山市下水処理場からJR橋までの約1.2km区間について、河道拡幅を中心とした1次改修を終了していた。その後、昭和48年より、改修区間を河口からJR橋までの約6.6kmに拡大し、トンネル河川による放水路を核として、宮前川の河道拡幅、河床掘削や護岸整備を行う改修に着手したが、その後、昭和54年6月の梅雨前線豪雨により、浸水家屋数8,212戸、浸水面積324haにも及ぶ甚大な水害が発生したことから、緊急性が高いと判断された放水路区間については、早急に事業を進め、昭和59年5月に改修が完了した。しかし、放水路分流点より上流については、現在でも、河道未改修区間が多く残っている状況である。
河川水の利用については、古くから農業用水に利用されており、現在でも、中下流部の農地のかんがい用水として利用されている。
(2)河川の総合的な保全と利用に関する基本方針
本水系における河川の総合的な保全と利用に関する基本方針としては、河川改修の実施状況、水害の発生状況、河川の利用状況、流域の文化並びに河川環境の保全を考慮し、地域の社会経済情勢と調和を図りつつ、水源から河口まで一貫した計画のもとに、河川の総合的な保全と利用を図る。
災害の発生の防止または軽減に関しては、洪水被害を軽減するために、河道の拡幅、護岸の整備等を進め、計画規模の降雨で発生する洪水の安全な流下を図ると共に、情報伝達体制及び警戒避難体制を整備する。さらに、たとえ溢水した場合でも、被害を最小限にするため、総合的な被害軽減対策を関係機関や沿川住民等と連携して推進する。
河川水の適正な利用に関しては、利水者との連絡調整を図り、効率的な農業用水の利用がなされるよう努めるとともに、松山市と連携して、流域内において計画されている下水道整備の促進を図るなど流水の正常な機能の維持に努める。また、渇水時においては、渇水被害軽減のための情報を提供し、地域住民の協力を得られるように努める。
河川環境の整備と保全に関しては、自然環境及び河川利用の実態の把握に努め、治水面・利水面との調和を図る。また、宮前川は単断面での改修が進んでおり、瀬・淵及び植生等が乏しく、動植物に対して良好な生息・生育環境とはなっていないため、今後の河川整備にあたり、メダカの生息空間となっている水際植生の保全や復元を図る等良好な動植物の生息・生育空間の確保に努める。
河川の維持管理に関しては、災害発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全の観点から、河川管理施設の機能を常に最大限に発揮できるように施設の点検及び整備に努める。宮前川では、ユスリカ発生の例にも見られるように、環境面の維持管理が重要であることから、ヘドロの除去、河川清掃等について、沿川住民・松山市と連携して取り組んでいくように努める。
宮前川は、松山市の中心部を貫流する河川であることから、地域の暮らしとの関わりが深いため、「治水対策(安心して暮らせるための基盤整備)」、「環境対策(快適な川づくり)」、「川と人との交流(川と流域住民との良好な交流の回復)」等沿川住民からの要望があげられている。このため、周辺地域及び関係自治体等と連携しながら、総合的に調和のとれた河川整備を推進していく。さらに、地域住民に対して、積極的に河川情報等を提供し、住民との関係をより緊密なものとし、河川の総合的な利用と保全が図れるように努めるものとする。また、河川愛護の啓発に努め、地域と一体となって川づくりを行い、水質及び自然環境の保全等適正な維持管理に努めるものとし、沿川住民が親しみを持ち、川とふれあえる場の提供に努める。
2.河川の整備の基本となるべき事項
(1)基本高水並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項
基本高水は、昭和54年6月の既往最大洪水を踏まえ、ピーク流量を基準地点津田橋地点において130立方メートル/sとする。
河川名 |
基準地点 |
基本高水のピーク流量 |
洪水調節施設による調節流量 |
河道への配分流量 |
---|---|---|---|---|
宮前川 |
津田橋 |
130立方メートル/s |
0 |
130立方メートル/s |
(2)主要な地点における計画高水流量に関する事項
計画高水流量は、基準地点津田橋において130立方メートル/sとし、放水路による流量カット(110立方メートル/s)後は、河口まで20立方メートル/sとする。
宮前川計画高水流量配分図
(3)主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る川幅に関する事項
本水系の主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る概ねの川幅は、次表のとおりとする。
河川名 |
地点名 |
河口からの距離(km) |
計画高水位(T.P.m) |
川幅(m) |
---|---|---|---|---|
宮前川 |
津田橋地点 |
2.98km |
+5.34 |
18.3m |
(注)T.P.:東京湾平均海面
(4)主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項
宮前川における既得水利としては、農業用水として、許可水利と慣行水利がある。
現河川の流況は、隣接する一級河川重信川水系石手川からの灌漑期における農業用水の導水及び松山市下水道中央処理センターからの処理水の放流等から、比較的良好な流況を呈している。
流水の正常な機能を維持するため必要な流量は、今後、流況等の河川の状況把握を行い、動植物の生息または生育等に十分配慮し、調査及び検討を行ったうえで設定するものとする。