本文
JA西宇和光センサー選果機入札に係る第三者委員会資料案件
第1 審査会の結論
平成15年9月8日付けで愛媛県知事(以下「実施機関」という。)が行った非公開決定は、結論において妥当である。
第2 異議申立てに至る経緯
1 異議申立人は、平成15年8月26日、愛媛県情報公開条例(平成10年愛媛県条例第27号。以下「条例」という。)第5条の規定に基づき、実施機関に対し、 JA西宇和選果機不正入札にかかわったすべての県職員の氏名、役職、部署名のわかる資料(第三者委員会を含む。)についての公開の請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。
※第三者委員会とは、光センサー選果機導入に関する調査検討委員会といい、平成12年度に西宇和農業協同組合川上地区(以下「川上地区」という。)に導入した光センサー選果機に係る問題(以下「川上問題」という。)の真相解明及び川上地区以外の光センサー選果機導入地区における導入の経過の調査・検証並びに今後の補助事業のあり方の検討を行うため、平成15年3月28日に設置された学識経験者等で組織する委員会である。
2 実施機関は、平成15年9月8日付けで、以下の公文書(以下「本件公文書」という。)を特定した上で、次の理由を付し、非公開決定(以下「本件処分」という。)を行った。
調査資料(川上選果場)(以下「調査資料」という。)
聞き取り調書(川上選果場)(以下「聞き取り調書」という。)
条例第30条第3項該当
本件公文書は、平成15年7月30日付けの告発に伴って愛媛県警察本部長に提出しており、当該文書は刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)上の押収物に該当することから、条例第30条第3項の規定により条例の規定が適用されない。
3 本件処分の通知を受けた異議申立人は、これを不服として、平成15年9月10日、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第4条の規定に基づき、実施機関に対し異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。
第3 異議申立人の主張する異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び実施機関の非公開理由説明書に対する反論書において主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
第三者委員会のすべての資料を同じ愛媛県職員である愛媛県警に提出したとは思われない。警察に提出していない資料の公開を求める。
補助金の不正交付については、愛媛県農林水産部長他の愛媛県職員が告訴、告発されるべき案件であり、愛媛県の内部懲戒処分のみで済まされる問題ではない。
第三者委員会といえども、愛媛県から委嘱され、愛媛県から報酬を受けとって調査したものであり、愛媛県とのゆ着を疑われても仕方のない状況にある。
本来、愛媛県職員が不正に手をかさなければ、補助金不正受給はありえない。愛媛県職員が告訴、告発されるべき案件であり、資料の隠ぺい工作は許せない。
第4 実施機関の非公開理由
実施機関が行った非公開決定の理由は、おおむね次のとおりである。
第三者委員会は、裁判における事実解明手法に準じ、証拠書類の収集と関係者からの聞き取りによる事実関係の調査・検証を進めており、その過程において作成し、又は取得した文書は、次のとおりである。
(1)調査資料 収集した証拠書類
(2)聞き取り調書 関係者に対する聞き取り調査の記録
(3)光センサー選果機導入に関する調査検討中間報告(JA西宇和川上選果場関係)(以下「中間報告書」という。)第三者委員会による川上問題の結果報告書
(4)中間報告骨子 中間報告書の概要
(5)会議資料 (1)から(4)までのほか、第三者委員会で使用した資料
このうち、JA西宇和選果機不正入札にかかわった県職員の氏名、役職、部署名等が記載されている文書は、(1)、(2)及び(3)であって、(4)及び(5)の文書にはこれらの事項は記載されていない。
さらに、本件公文書は、平成15年7月30日付けの告発に伴って愛媛県警察本部長に提出(現在はその控えを保有している。)し、刑事訴訟法上の押収物として取り扱われている。押収物については、同法第53条の2の規定により、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)の規定は適用されないことから、条例第30条第3項の規定により、条例の規定も適用されない。また、これらの押収物の控えについても、原本と同一の内容を有するものであるので、やはり「押収物」と言わざるを得ず、同様に条例の規定は適用されない。
なお、本件公文書以外にJA西宇和選果機不正入札にかかわった県職員の氏名、役職、部署名等が記載されている文書として、中間報告書があるが、これは同年7月22日の第三者委員会からの中間報告と同時に、個人情報等を黒塗りした写しを公表しているため、本件公開請求に対して、別途、異議申立人に当該写しと同様のものを閲覧させている。
第5 審査会の結論の理由
1 基本的な考え方について
本件異議申立ては、JA西宇和選果機不正入札にかかわった県職員の氏名、役職、部署名等が記載されている文書は、本件公文書のほかにも存在するとして、その公開を求めるものであることから、本件公文書以外に特定すべき公文書が存在するか否かを検討するとともに、さらに、本件公文書の控えが対象公文書に該当するか否か(条例第30条第3項の該当性)について検討を行うこととする。
2 公文書の特定について
まず、本件公文書以外に対象公文書として特定すべき公文書の存否について判断する。
実施機関の説明によれば、第三者委員会は、裁判における事実解明手法に準じ、証拠書類の収集と関係者からの聞き取りによる事実関係の調査・検証を進めており、その過程で作成し、又は取得した文書は、(1)調査資料、(2)聞き取り調書、(3)中間報告書、(4)中間報告骨子及び(5)会議資料であり、このうち、JA西宇和選果機不正入札にかかわった県職員の氏名、役職、部署名等が記載されている文書は、(1)、(2)及び(3)であって、(4)及び(5)の文書にはこれらの事項は記載されていないとする。これに対し、異議申立人は、JA不正第三者委員会のすべての資料を同じ愛媛県職員である愛媛県警に提出したとは思われないと主張する。
この点について、当審査会が第三者委員会の設置要領等関係資料を調査したところ、第三者委員会は、証拠書類の収集と関係者からの聞き取りの手法を用いて事実関係の調査・検証を行っており、上記(1)から(5)までの文書のみを保有するという実施機関の説明に不自然、不合理な点はない。また、当審査会が実施機関に赴き調査した限りにおいて、(1)から(3)までの文書以外に請求の趣旨を満たす公文書の存在は認められなかった。さらに、異議申立人からはこれらの公文書以外に本件公開請求に係る公文書が存在することを示す具体的な説明もなされていない。よって、当審査会としては、本件公開請求に係る公文書は(1)から(3)までの文書以外に存在しないと判断せざるを得ない。
なお、本件処分において、中間報告書が特定されていないことについて、実施機関は、当該中間報告書については、個人情報等を黒塗りした写しを公表しているため、本件公開請求に対して、別途、異議申立人に写しと同様のものを閲覧させていると主張している。しかし、当該写しは、公表することを目的として、中間報告書に特定の個人が識別できないよう加工を施すことにより作成された別の公文書であり、当該写しの公開だけでは、不正入札にかかわった県職員の氏名等の公開を求めるという請求の趣旨を満たしているとはいえず、実施機関は、本件公開請求に対して、中間報告書も併せて特定すべきであったと思われる。
しかしながら、実施機関は、異議申立人が行った平成15年9月10日付けの公開請求に対して、当該中間報告書を特定した上で、刑事訴訟法にいう押収物に該当することを理由に適用除外の決定を行っているところであり、改めて当該中間報告書を特定し、決定を行う実益はないものと考える。
3 条例第30条第3項の該当性について
次に、本件公文書の控えが対象公文書に該当するか否か(条例第30条第3項の該当性)について判断する。
条例第30条第3項は、法律の規定により情報公開法の規定が適用されないこととされている公文書については、条例の規定を適用しないことを定めている。そして、刑事訴訟法第53条の2において、訴訟に関する書類及び押収物については、情報公開法の規定は適用されないこととされている。
本件公文書については、実施機関の主張するとおり、平成15年7月30日付けの告発状に添付され、愛媛県警察本部長に提出されていることが認められる。押収とは、捜査当局が保全の目的で物の占用を取得することをいい、その所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出する場合についても含まれると解されるところ、本件公文書が刑事訴訟法にいう押収物に当たり、条例の規定が適用されないことは明らかである。
しかし、異議申立人が警察に提出していない資料の公開を求めるのに対し、実施機関は、本件公文書の控えを保管していることを明らかにした上で、その控えについても条例の規定が適用されないと主張していることから、その是非について検討する。
訴訟に関する書類及び押収物について情報公開法の規定が適用されない理由は、
(1)訴訟に関する書類及び押収物については、刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること
(2)刑事訴訟法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、被告事件終結後においては、同法第53条及び刑事確定訴訟記録法により一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続によることとされるなど、これらの書類等は、刑事訴訟法(第40条、第47条、第53条、第299条等)及び刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること
(3)これらの書類及び押収物は類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであること
とされている(「詳解 情報公開法」総務省 行政管理局 編)。
つまり、捜査・公判に関する活動の適正さは司法機関である裁判所により確保されるべきとする点(上記(1)及び(2))や類型的に非公開情報に該当する点(上記(3))に着目して、これらの書類が情報公開法の適用除外とされたものということができる。
本件公文書の控えは、実施機関によると、告発状に添付した本件公文書を乾式複写機により複写して作成したとのことであり、内容については、本件公文書と全く同一のものであると認められる。そうすると、原本と控えという物理的な差異はあるものの、刑事訴訟法の趣旨に照らせば、その性質は何ら変わるものではないとみるのが相当である。
よって、本件公文書の控えについて条例の規定が適用されないという実施機関の判断は妥当である。
4 異議申立人のその他の主張について
当審査会は、実施機関が行った非公開決定の是非を審査することを任務とするものであり、異議申立人が主張する県職員の告訴・告発の是非あるいは愛媛県と第三者委員会との関係のあり方について審議する立場にない。
5 まとめ
以上の理由に基づき、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。
別記
年月日 |
処理内容 |
---|---|
平成15年9月26日 |
実施機関からの審査依頼(諮問)受理 |
平成15年10月29日 |
実施機関からの非公開理由説明書受理 |
平成15年10月31日 |
異議申立人に非公開理由説明書送付 |
平成15年12月8日 |
異議申立人からの反論書受理 |
平成15年12月10日 |
実施機関に反論書送付 |
平成15年12月16日(第1回審査会) |
審議 |
平成16年1月29日 |
査会による本件公文書以外の公文書に係る存否認定調査 |
平成16年1年29日(第2回審査会) |
審議 |
平成16年2月18日(第3回審査会) |
審議 |
平成16年3月30日(第4回審査会) |
審議 |
参考
職名 |
氏名 |
現職 |
---|---|---|
委員 |
桐木 陽子 |
松山東雲短期大学助教授 |
会長職務代理 |
藤山 薫 |
弁護士 |
委員 |
望月 清人 |
松山大学名誉教授 |
会長 |
百地 章 |
日本大学教授 |