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特別養護老人ホーム整備のためのヒアリング状況の記録案件
第1.審査会の結論
平成11年10月26日付けで愛媛県知事(以下「実施機関」という。)が行った非公開決定は、妥当である。
第2.異議申立てに至る経緯
- 異議申立人は、平成11年10月13日、愛媛県情報公開条例(平成10年愛媛県条例第27号。以下「条例」という。)第5条の規定に基づき、実施機関に対し、平成12年度における特別養護老人ホーム整備のために市町村から県に提出のあった資料及びヒアリング状況の分かるものについて公開の請求を行った。
- 実施機関は、当該公開請求のあった公文書のうち、平成12年度における特別養護老人ホーム整備のためのヒアリング状況の分かるもの(以下「本件請求対象公文書」という。)について、平成11年10月26日付けで、該当する公文書は不存在であるとして、非公開決定(以下「本件決定」という。)を行った。
- 本件決定の通知を受けた異議申立人は、これを不服として、平成11年12月21日、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第4条の規定に基づき、実施機関に対し、異議申立てを行った。
- なお、当該公開請求のあった公文書のうち、平成12年度における特別養護老人ホーム整備のために市町村から県に提出のあった資料については、平成11年11月11日付けで部分公開決定を行っている。
第3.異議申立人の主張する異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び実施機関の非公開理由説明書に対する反論書において主張する異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
1 はじめに
特別養護老人ホーム整備については、多額の国庫補助金を受けるのであるから、当該施設整備についての協議書だけで判断せず、関係する設置者及び設置予定の町村の担当職員から説明を受ける「ヒアリング」時の状況が分かる書類を公文書として残す必要があると考える。
2 ヒアリングの状況が分かる書類が不存在であることに対する反論
(1) 実施機関は、設置主体の担当者及び設置予定の市町村の担当職員に対し行ったヒアリングの日時、ヒアリングを行った老人施設係の担当職員名、設置主体の担当者名、市町村の担当職員名の記録、やり取りの状況、問題点について、その記録を残しておくのが妥当ではないか。
公務として行ったヒアリングを書類の作成をせず「不存在である」とするのは、職務怠慢ではないか。
(2)実施機関は、ヒアリングで指示したこと、訂正、差し替えたものに対する記録をヒアリング時の状況の分かるものとして、公文書に残す必要がある。県は国庫補助金交付の要件を満たすために、一つ一つの協議書、添付書類のチェックを行ったと思うが、書類の審査はもちろん、その時のヒアリング時における面接を通しての設置者の人物、全体の印象なども記録しておくべきではないかと思う。多額の公費を受け、入所する高齢者は心身共に弱い立場であり、人権を尊重し、ケアをすることが求められている施設建設だからである。
3 ヒアリング状況の分かる公文書の存否について
本件ヒアリングは、国庫補助を受けるための協議書の内容を整備するための行為であり、市町村担当者等に指示が伝われば足りるものであり、記録することは行っていないし、必要性もないという県の姿勢は問題である。そして、ヒアリングの状況が不透明であり、文書不存在というこれまでの態度は見直すべきである。
特別養護老人ホームの補助金の不正受給が「彩福祉グループ事件」でも露見し、国内でも、いくつもの例がある。そして、政経ジャーナル99年1月号によると松山市でも行われていた。それによると、松山市に建設された特別養護老人ホームの法人代表に国会議員で当時、建設大臣の関谷勝嗣代議士の名義貸しで、ヒアリングが行われた事実がある。また、今回、大西町の設置者も診療報酬不正請求の疑いがもたれ、本人が取下げをしたと聞いている。
協議書の中には「設置者の適性」等もあり、ヒアリング時に十分な審査が行われていたらと残念でならない。
以上のように多額の公費を受ける特別養護老人ホーム整備に係るヒアリングの公文書の不存在は、納得できない点が多く、記録を行い公文書として作成されることを要望する。
第4.実施機関の非公開理由
平成12年度における特別養護老人ホーム整備のためのヒアリング状況の分かるものに関する公文書は、以下に述べるとおり存在しない。
1 特別養護老人ホームの施設整備について
特別養護老人ホームは、県及び市町村の老人保健福祉計画に基づき計画的に整備が進められているところであるが、平成12年度においては、昨年12月に策定された「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向」(「ゴールドプラン21」)に掲げられた平成16年度における介護サービス提供量等を踏まえ、計画的な整備を進めることとされている。
2 特別養護老人ホームの施設整備に係る国庫補助の手続について
平成12年度の特別養護老人ホームの整備に係る国庫補助の事務手続は、次のとおりである。
(1) 設置主体は、平成11年6月頃までに、施設の設置場所、整備に要する事業費、国庫補助額、建築面積、用地取得の状況、整備に要する費用の資金調達計画、社会福祉・医療事業団の借入金の償還計画、設置主体である社会福祉法人の概要等を記載した協議書及びこれらを裏付ける資料(設計図、見積書、用地の登記簿謄本、法人役員の履歴書等)を市町村へ提出した。
(2)協議書の提出を受けた市町村は、この協議書に当該施設整備の必要性、設置者の適性、設置場所の適性などの意見を付して平成11年7月頃までに県へ提出した。
(3)県では、平成11年9月7日及び20日に保健福祉部高齢者福祉課老人施設係の担当職員が、市町村から提出された協議書に示されている施設整備計画の内容について、設置主体の担当者及び設置予定の市町村の担当職員から聞き取り(ヒアリング)を行った。
(4)県では、厚生省の示す平成12年度老人福祉施設の整備方針、協議基準等に基づき、施設整備の妥当性を審査した上、これらの基準を満たしたすべての施設整備計画について、平成12年1月18日、担当職員が厚生省に対して協議を行った。
(5)厚生省は、県との施設整備計画についての協議内容を検討し、平成12年6月頃に、国庫補助する予定である旨の決定を県に対して行い、県は、この決定を受け、設置主体に対し事業費を補助する旨の通知(補助内示)を行う予定である。
(6)設置主体は、県からの補助内示後、補助金の交付申請手続を行うとともに、建設工事に着手し、工事完了後に補助金を受領することとなる。
3 県によるヒアリングの内容
前記2(3)の県担当職員によるヒアリングは、県が、国庫補助金交付の要件である施設の設備基準との適合性、補助額の補助金交付要綱との適合性、用地取得の確実性、整備費用の資金調達の確実性、設置主体が社会福祉法人である場合には当該法人の社会福祉法人認可基準との適合性等を審査する過程において、県に提出された協議書及び添付書類の記載事項のうち不明である事項や補正を必要とする事項について、設置主体の担当者及び設置予定の市町村の担当職員に対し説明を求めたり、協議書等の補正を指示するために行ったものである。
当該ヒアリング時の指示に基づき、市町村担当者等は、協議書を訂正し、差し替えの必要なものは、後日県へ提出するなど、老人福祉施設整備に係る国庫補助を受けるために必要な協議書の内容を整備したものである。
4 ヒアリング状況の分かる公文書の存否について
前記3のとおり、市町村等に対するヒアリングは、老人福祉施設整備に係る国庫補助を受けるための手続として国が求めている当該施設整備についての協議書の内容を整備するための行為であることから、県の担当者から市町村担当者等に指示が伝われば足りるものであり、実際に当該ヒアリングの状況を記録することは行っていないし、その必要性もない。
したがって、不服申立者から請求のあった平成12年度における特別養護老人ホーム整備のためのヒアリングの状況の分かるものに係る公文書は存在しない。
第5.審査会の結論の理由
1 基本的な考え方について
審査会は、実施機関における条例の解釈運用についての妥当性を審査することをその目的としていることから、審査会の答申としては、本来、本件請求対象公文書の存否の認定のみで足りると考えられる。
しかしながら、異議申立人は、実施機関はヒアリングのやり取りの状況、問題点などを記録しておくべきであり、これらの記録がないというのでは、ヒアリングの状況が不透明であり、したがって、文書不存在というこれまでの態度は見直すべきであると主張しているとおり、本件請求対象公文書の存否だけでなく、ヒアリング状況について記録した公文書の必要性について言及していると考えられるので、当審査会としては、その実質的争点である本件請求対象公文書の作成が必要であったかどうかについても検討を行った。
2 平成12年度の特別養護老人ホームの施設整備に係るヒアリングについて
特別養護老人ホームの整備に当たっては、老人福祉法(昭和38年法律第133号)により、当該設備に要する費用については国が負担又は補助することとされているが、その国庫負担(補助)(以下「国庫補助」という。)が行われるまでの事務の流れは、別紙のとおりであり、本件ヒアリングは、県が、国庫補助金交付の要件である施設の設備基準との適合性、補助額の補助金交付要綱との適合性、用地取得の確実性、整備費用の資金調達の確実性、設置主体が社会福祉法人である場合には当該法人の社会福祉法人認可基準との適合性等を審査する過程において、県に提出された協議書及び添付書類の記載事項のうち不明である事項や補正を必要とする事項について、設置主体の担当者及び設置予定の市町村の担当職員に対し説明を求めたり、協議書等の補正を指示するために行われたものであると認められる。
3 本件請求対象公文書について
本件請求対象公文書は、国庫補助を受けるために設置主体から提出された協議書を基に、県高齢者福祉課老人施設係の職員が、当該設置主体及び関係市町村の担当職員(以下「市町村等担当者」という。)に対しヒアリングを行った際の当該ヒアリング状況を記録したものと認められる。
4 本件請求対象公文書の存否について
実施機関は、本件請求対象公文書は作成しておらず、存在しないと主張しているため、当審査会は、平成12年6月5日に、審査会会長が実施機関に赴き、当該国庫補助に係る関係書類の調査を行ったが、その結果は、次のとおりである。
(1) 本件請求対象公文書については、存在していないことが認められた。
(2)なお、関係書類の中には、県の担当者のノートが存在し、これには、「施設の各部門別実整備延面積」、「土地の抵当権の状況」、「農地転用の見込み及びスケジュール表の作成」、「設立母体となる法人の財産状況(財産、見込み)」、「資金計画」、「寄付者の資力、残高証明」、「町議会議事録等を添付」、「各施設別の色分け図面」等と走り書きされている。これらは、実施機関の説明によると、ヒアリングを行う前に協議書をチェックし、ヒアリング時に市町村等担当者に対し確認したり、補正を指示すべき項目をメモしたものであるとのことであるが、当該ノートの体裁並びにその記載の仕方及び内容から判断して、当該メモは、担当者個人がヒアリングを円滑に行うため、チェックすべき項目を事前にメモしたものであり、ヒアリング状況を記録したものではなく、また、担当者個人の参考資料でしかないものであって、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有している「公文書」にも該当しないと認められる。
(3)また、県の担当者は、実際のヒアリングにおいて確認した事項等については、協議書の余白にメモしているとのことであるが、差し替え等により破棄されているため、当該メモの存在は認められなかった。
5 本件請求対象公文書の作成の必要性について
(1) 前記1で述べたとおり、異議申立人の主張は、本件請求対象公文書の存否にとどまらず、その作成の必要性について言及していることから、これについて、以下検討する。
(2)本件ヒアリングは、平成12年度において行われる国庫補助の交付申請及び社会福祉法人設立認可申請の事前協議の性格を有するものであり、当該ヒアリングにおいて県の担当者が市町村等担当者に対して行う指示等は、行政指導の一環として行われるものである。
(3)行政指導は、広範多岐の分野で様々な形で行われており、その中には、書面交付によらなくても十分明確に指導を行うことができるものや、相手方としてもわざわざ文書にされなくても十分指導内容が理解できると考えられるものがあり、これらにまで書面交付を義務付けることは、行政運営の効率性とのバランスの観点からも適当でないと考えられるところ、当該ヒアリングの性格は、実施機関に対する説明聴取の結果や前記4(2)の担当者用ノートに記載されたメモの内容から判断すると、当該協議書の記載項目について、不明な点を確認したり、補正すべき事項を指示したりする等の事務的な作業であること、さらに、当該指示等は、ヒアリングの場において相手方が理解できる程度のものであり、かつ、その相手方が、改めて文書で指示を求めなければならないほどに明確さを欠いたりするものではないと考えられることから、行政運営の効率性とのバランスを考慮すると、担当者がヒアリングでのやりとりの状況を公文書として記録に残す必要性があったとまでは認められない。
(4)なお、異議申立人は、施設整備をめぐる補助金の不正受給事件や大西町の設置主体による施設整備計画の取下げ事案等を例にとり、ヒアリング時に十分な審査が行われていれば、これら事件も発生していなかったであろう旨主張し、さらに、本件ヒアリング状況を記録した公文書を作成せず、その必要性もないというのであれば、ヒアリング状況が不透明である旨主張しているが、当該ヒアリング時に十分な審査が行われたかどうかについては、条例の解釈運用の妥当性について審査することを目的とする当審査会が判断する内容ではなく、また、当該ヒアリング状況を記録した公文書の作成の必要性については、前記(3)で認定したとおりである。
6 まとめ
以上述べたとおり、実施機関に対する説明聴取及び関係書類の調査の結果、本件請求対象公文書の存在は認められないことから、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。
なお、本件ヒアリングについては、前記5で述べたとおり、当該ヒアリング状況を記録した公文書を残す必要性まで認めることはできない。
別記
年月日 |
処理内容 |
---|---|
平成11年12月28日 |
諮問 |
平成12年1月5日 |
実施機関に非公開理由説明書の提出依頼 |
平成12年1月28日 |
実施機関からの非公開理由説明書受理 |
平成12年2月3日 |
異議申立人に非公開理由説明書送付 |
平成12年2月29日 |
異議申立人からの反論書受理 |
平成12年3月22日(第1回審査会) |
審議 |
平成12年6月5日 |
審査会会長による関係書類の調査 |
平成12年6月5日(第2回審査会) |
審議 |
平成12年8月21日(第3回審査会) |
審議 |
参考
職名 |
氏名 |
現職 |
---|---|---|
委員 |
門田 圭三 |
南海放送 株式会社 常任相談役 |
会長職務代理 |
藤山 薫 |
弁護士 |
委員 |
望月 清人 |
松山大学教授 |
会長 |
百地 章 |
日本大学教授 |