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試験研究報告16要約
留置型プロゲステロン製剤(CIDR(TM))の除去時期がその後の発情に及ぼす影響
佐伯 拡三、河野 良輝、沖本 宏
牛胚移植において、新鮮胚移植は良好な受胎率を得るために有効な手段である。そのためには、受胚牛に対する発情の同期化が必要である。よって、留置型プロゲステロン製剤(CIDR)を用いた発情同期化方法について試験を行った。その結果、発情後14日目にCIDRを除去した場合、黄体由来のプロゲステロンの影響により発情をコントロールすることはできなかった。CIDR除去を発情後19日目以降に行った場合、主席卵胞は速やかに成熟し、これに伴い除去後2~3日目に発情が認められた。以上のことから、CIDR除去後の発情は、黄体由来のプロゲステロンの影響が消失した時期にCIDRを除去することにより、速やかに発現するものと結論づけられた。よって、黄体期が終了しているであろう受胚牛を選定し、CIDR処理する必要がある。
キーワード:牛、CIDR、発情同期化
暑熱環境が搾乳牛の乳生産及び生理機能に及ぼす影響(第1報)
戸田 克史、藤岡 一彦、家木 一
暑熱環境が搾乳牛の乳生産及び生理機能に及ぼす影響を明らかにするため、ホルスタイン種搾乳牛8頭を用い、5月から10月にかけて調査を行った。その結果、気象指標と生産及び生理機能との関係において以下のような知見が得られた。1)月別の乳量減少割合は、共分散分析の結果6月が有意に大きく、また5月から乳量の低下が認められた。2)気象指標と乳量及び乾物摂取量を時系列解析した結果、気象指標の上昇は翌日の乾物摂取量、2~3日後の乳量に影響することが認められた。また乳牛の適温域からの逸脱時期には、翌日の乳量に影響することが認められた。3)初産牛の乾物摂取量は経産牛ほど顕著な減少は認められなかった。4)乳牛の温熱感覚を表す指標は平均体温、温熱環境を表す指標は体感温度を用いることが適していると思われた。
キーワード:搾乳牛、体感温度、温湿度指数、乳生産、呼吸数、平均体温
寒地型牧草の追播がシバ草地造成に及ぼす影響
佐竹 康明
秋季に寒地型牧草を追播し、シバが冬枯れする冬季の生産性を補助することにより、周年利用可能なシバ草地造成技術の検討を行った。
その結果、シバ及び寒地型牧草のSDR2は、夏季にシバ、冬季に寒地型牧草が上位を優占した。シバ被度は、寒地型牧草を追播したにも拘わらず3年で100%(5月移植区)に達した。よって、寒地型牧草の追播は、シバの育成を阻害せず、短期間で草地完成を可能とする有効な方法であると示唆された。
キーワード:シバ、寒地型牧草、周年放牧、シバ草地造成
胚移植産子の市場評価
沖本 宏
市場で収集したデータを数量化法によって処理し、ET産子に対する市場の評価を解明するとともに、他の取引価格形成要因の影響力を計測し、取引価格の向上対策について検討した。
その結果、今回適用した要因によって、取引価格の形成に対する約70%が説明されることが示された。
取引価格の形成に及ぼす各要因の影響力の大きさは、体重、開催月、性別、父牛、日齢、移植の有無の順となり、特に移植の有無については非常に小さかった。
市場での取引価格の形成に有利な条件は、去勢牛、脂肪交雑遺伝力の高い種雄牛、良好な発育、2,10月の出荷であり、特に調査対象市場においては発育の良否が最も重要視されていた。
キーワード:牛、胚移植、市場評価、数量化1.類
胚移植技術の認識及び技術導入の意思と動機
沖本 宏
今後のET技術の効率的な活用を進めるため、意向調査を実施し、農家の認識、技術導入の意思や動機を解明するとともに、調査データを基に今後の需要動向を予測した。
その結果、多くの農家で豊富な知識・経験を保有していると意識しており、ET技術に対する関心度の高さが示された。また、改良促進及び収益性向上の効果は多くの農家で評価されていたが、実用度については、現行の技術レベルに対して多くの農家が不満を持っていることが示唆された。
導入の意思を有する農家は全体の80%以上を占め、また評価との関係から、収益性向上効果、簡易性及び確実性に対する評価が意思の決定に重要な要因であることが示唆された。
導入の動機は乳牛改良が約70%を占めていたが、本県の現状から、殆どの農家で潜在的な需要になっていると考えられた。
県内で飼養されている乳用成雌牛全頭を対象とし、現行の受胎率条件下での需要を推定すると、黒毛和種胚の移植は約300頭、ホルスタイン種胚の移植は約800頭であった。
キーワード:牛、胚移植、認識、導入の意思と動機、需要動向